「劇のたまご」シリーズは「子ども向け」というよりは「親子向け」らしい。
たしかに子どもが観て楽しむだけじゃなく、大人も満足できる舞台だ。子どもたちに舞台の面白さを知ってもらいたいという思いと、大人たちにお芝居にもどってきてほしいって狙いもあるんじゃないだろうか。
『アラジンと魔法のランプ』。とにかく有名な物語だ。名前くらいはみんな知ってる。ディズニー映画にもなっている(けど僕は観ていない)。今回はディズニーとは違って原作に近い物語になっているらしい。
とにかく生の舞台ならではの仕掛がたくさんある。指輪の魔神(磯貝圭子/札幌座)はびっくりするほど縦に長くてけっこうビビる。そしてランプの魔神(山野久治/風の色)の迫力たるや。体ひとつ、特殊効果を使ってるわけでもないのに初登場時にどよめきが起こった(リアル札幌の魔神)。
魔法使い(横尾寛/ヨコオ制作所)に連れられたアラジン(田中春彦/わんわんズ)が、巨大な石の扉を開けるシーンや地下深くに降りていくさまはワクワクする。お姫さま(熊木志保/札幌座)もエキゾチックな魅力がある。
指輪とランプの魔神は登場するごとに一曲披露するというサービスぶり。曲は全体的に演歌・歌謡曲調。本来、異国情緒あふれる『アラジン~』のはずが、昭和の情緒に塗り替えてみせたのは音楽・斎藤歩だ。
1時間の舞台で泣き出す子どもはひとりいたけれど、子どもたちはおおむね舞台に集中して、最初と最後に行われる「劇のたまご」オリジナル振り付けは楽しそうに参加していた(中盤のアラジンへの難題、使用人? 友達? を100人集めるくだりでこの振り付けをみんなで行うというのはどうだろう?)。
子どもも大人も大満足して夏のいい思い出になるはず。そしてこれから、何度も劇場に足を運ぶようになれば……。
さてここからは大人向けに物語論を。ネタバレありで。
この物語は中盤、魔法のランプの力で大きな宮殿をこしらえたアラジンが、お姫様と結婚してふたり仲よく暮らす。めでたしめでたしだ。しかしそこで終わらない。
魔法のランプを探し求めていた魔法使いが、姫をだましてランプを奪い、魔神を呼び出し宮殿ごとアフリカへ移動して暮らしはじめる。宮殿も姫も奪われたアラジンは、指輪の魔神の助力もあって宮殿へ行き、策謀を巡らしてランプを奪還、姫も取りもどしハッピーエンドとなる。
この中盤以降の展開だが、じつは世界中にある昔話とおなじパターンなのだ。物語論をかじったことがある人ならご存じ、ウラジミール・プロップの『昔話の形態学』だ。
試練を乗り越え「報酬」(金や宝、地位、結婚相手)を得た主人公は「帰路」につくのだが、ニセ主人公の登場によりすべてを失う。その後、ニセ主人公と対決し正体を暴露して、最終的に結婚や報酬を得てハッピーエンドになる。
『アラジン~』も中盤以降、魔法使いがランプを奪い姫と暮らす。主人公とおなじ立場となるのだ。すべてを失ったアラジンは魔法のランプを取りもどし、真のご主人として魔神に命令し、姫を取りもどす。
では『アラジン~』において中盤以降の展開はどういう意味を持つのだろうか。ただおなじパターンだね、だけではない。
物語の前半は、アラジンの活躍はあるが魔神のランプの活躍だ。命令しているのはアラジンだが、結果的に魔神のランプのおかげで姫や宮殿、地位を得る。
しかし後半、アラジンは魔法のランプを奪われてしまう。(指輪の魔神の助力はあるが)自ら知恵を絞り、姫と協力して魔法使いを眠らせ、ランプを奪い返す。アラジン自身の力(と姫の力)によって困難を乗り越えるのだ。
冒頭、働かないで怠けていると母親になじられるアラジンは、知略に長け魔神を使いこなす青年として成長する。中盤以降の展開に、この物語の面白さと深さがあるように僕は思う。
公演場所:やまびこ座
公演期間:2024年8月11日
初出:札幌演劇シーズン2024「ゲキカン!」
text by 島崎町